投稿日:2013年6月28日|カテゴリー:吉田京子
法廷傍聴を終えた方から、「裁判官に必要な資質とは何ですか」と尋ねられたことがあります。裁判官になって間もない時期でした。私はこの質問に正面から答えることができず、ただ、「目の前の事件一つ一つに決して手を抜かずに取り組むように心がけています」とだけお話しました。
今になって思うのは、裁判官に必要なのは「謙虚さ」ではないかということです。控え目であれとか、へりくだっているべきだというのではありません。ここでいう「謙虚さ」とは、自分には知らないことがたくさんあるということをわきまえている様子です。それを知ろうとして真摯に学ぶ態度のことです。本を読み、話を聞き、想像力を働かせようとする姿勢のない裁判官の判断は、独善そのものだからです。
先日、ある裁判員裁判の法廷で、当事務所の弁護士が弁論を行いました。その締めくくりに、刑事司法と裁判員の果たすべき役割について話し始めた時のことです。陪席裁判官の一人が手元のペンを片付け始めたのです。私は彼女から目が離せなくなりました。その不遜な態度を責めるためではありません。そこに、かつての自分がいるように思ったからです。
もちろん、「謙虚さ」が必要とされるのは裁判官だけではありません。真摯に、あるいは貪欲に知見を広げながら、弁護士としての職責を果たしていきたいと思っています。