事例紹介

傷害致死事件、正当防衛で無罪

muzaiS

 
出版コンサルタントとタレント事務所を経営するYさん(42歳男性)は、自宅近くの夜の繁華街で、酔っ払った男性にしつこく絡まれました。「ぶっ殺すぞ」と脅されたうえ、何度も殴る蹴るの暴行を受けました。Yさんは両腕でガードして防ぎましたが、相手の暴行はエスカレートするばかりでした。たまらずYさんは1発パンチを繰り出しました。それが男性の顔面をヒットし、男は路上に倒れました。
 
やれやれ。そう思ったのもつかの間、事態は思わぬ展開になりました。男性はそのまま動かなくなり、救急搬送先の病院で亡くなりました。死因は脳挫傷に伴う急性硬膜下血腫です。Yさんは逮捕され、傷害致死罪で起訴されました。「相手から理不尽な攻撃を受けたので、身を守るために一発殴っただけだ」。Yさんは正当防衛を主張しました。検察は、Yさんが男性を一方的に殴って死なせたと主張し、検察側の目撃証人は「被告人が圧倒的に優勢だった」と証言しました。
 
わたしたちは、事件の前に男性が飲酒していた居酒屋の店主や店員の証言によって、男性が酒を飲むと暴力的になる人で、その日も店員や客にケンカを売っていたことを明らかにしました。コンビニの防犯カメラで彼の足取りがしっかりしていたことを立証しました。そしてさらに、男性が「特発性血小板減少性紫斑病」という血液の病をもっており、ごく僅かな刺激でも大量に出血する体質だったことを突き止め、主治医の先生に証言してもらいました。
 
1週間にわたる裁判員裁判の結果、Yさんは正当防衛の成立を認められ無罪となりました。この事件も検事控訴なく1審で無罪が確定しました。
 
なお、Yさん自身がこのときの経験を本にして出版しています。刑事裁判に巻き込まれた個人の気持ちや司法制度の問題点が鮮やかに描かれています。ぜひご一読下さい。
 
吉野量哉『無罪――裁判員裁判372日間の闘争』(竹書房)

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