喜び半ばの無罪判決

喜び半ばの無罪判決

投稿日:2011年8月30日|カテゴリー:高野隆

超正統派ユダヤ教徒ゴールドスタイン・ヨエルさん(事件当時23歳)のMDMA密輸事件で、8月29日、千葉地裁刑事第2部(波床昌則裁判長)は無罪判決を言い渡した。イスラエルからやってきたユダヤ教徒の父親が、傍聴席で聖書を黙読しながら目を赤くしていた。裁判長は、判決言渡し後、弁論終結から判決まで3ヶ月半もかかってしまったことを被告人に詫びていた。

もちろん弁護人として無罪判決は嬉しい。けれども、心の底からこの判決を喜ぶことはできない。ゴールドスタインさんは、テルアビブ郊外の超正統派ユダヤ教徒の集落ブネイ・ブラクから同じ飛行機で成田にやってきた3人のイェシバ(宗教学校)の学生の一人だった。彼らは同じコミュニティ出身のユダヤ教徒からユダヤ教の歴史的な宝物(ジュダイカ)を日本に運んでほしいと言われて、アムステルダムでスーツケースを渡された。まさかそこに違法なものが仕込まれているとは夢にも思わなかった。彼らは2008年4月成田で逮捕された。以来3年半もの年月を異国の拘置所で過ごすことになった。かならず無罪放免され晴れて故郷に帰れると信じていた。

しかし、最年少のバンダ・ヨセフさん(当時17歳)はいち早く有罪判決を受け、1年間服役した後本国の刑務所に移送された。グリンバルド・ヨセフさん(当時19歳)は昨年千葉地裁刑事第1部(彦坂孝孔裁判長)で有罪判決を受け、控訴したが東京高裁第3刑事部(金谷暁裁判長)は今年5月控訴を棄却した。グリンバルドさんはいま千葉刑務所で服役している。私は1審の途中からグリンバルドさんの弁護団にも参加し、控訴審では弁護団を主導する立場にあったが、彼を救出することはできなかった。今回の無罪判決に対して千葉地検は控訴してくるかもしれない。悲劇はまだ終わっていないのだ。

2011-08-30 18:01 高野隆
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