当事務所が取り組んできた覚せい剤密輸事件の裁判員裁判で、2月13日、東京地裁刑事21部(三浦透裁判長)は無罪判決を言い渡しました。当事務所が獲得した裁判員裁判の無罪判決はこれで3件目になります。

この事件は、国際的な麻薬密輸組織が日本の若い女性をターゲットにして、知らない間に「運び屋」にしてしまったというものです。その手口は非常に巧妙です。リクルーターが海外旅行の経験がない二十歳そこそこの女の子に近づき、「ただで海外旅行に行かせてあげる」「書類を持って帰るだけで20万円あげる」などと言って誘い、彼女たちを香港やマカオなどに旅行に行かせます。現地に着くと「現地ガイド」が彼女たちに付き添い、ショッピングモールでお土産の缶詰を買わせます。その後、食事などをしている間に、一味の人間が缶詰を覚せい剤入りのものにすり替え、女性たちは、その缶を日本に持ち帰りリクルーターへお土産として渡すというものです。私どもの依頼人は当時22歳の女性でやはり初めての海外旅行でした。羽田の税関検査で土産物の缶詰から1.4キロの覚せい剤が発見され、その場で覚せい剤密輸の現行犯として逮捕され、以来1年4カ月間拘束されてしまいました。

覚せい剤密輸事件の裁判員裁判で「無罪判決が相次いでいる」などと報道されることがあります。それは裁判員が麻薬の密輸に甘いとか彼らが密輸事件の実態を知らないからだ、などというものではありません。今回の事件が示しているように、麻薬密輸組織は一般の旅行者や未熟な若者、お人よしの冒険家などを騙して、「ブラインド・ミュール」(事情を知らない運び屋)として利用しているのです。職業裁判官はこの実態をなかなか理解しようとしませんでした。しかし、裁判員たちは被告人の言葉にも真摯に耳を傾け、彼女らが麻薬の運び屋などではなく、組織に騙され利用された犠牲者なのだということを正当に理解しているのです。麻薬密輸の実態についての知識や経験がなくても、いやむしろそのような予断や偏見がないからこそ、裁判員は自分たちの常識にしたがって証拠を真摯に検討することができ、目の前の被告人が犠牲者である可能性を理解できるのです。

2013-02-15 13:31 | 高野 隆